15クラス4サイクルエンジンの切削加工偏


世界最小クラスのスーパーチャージ4サイクルエンジン

15クラス4サイクル模型エンジンパーツ

排気量2.48ccの量産型としては世界最小クラスの4サイクルエンジンの加工編です
ボア径15.20mm、ストローク13.70mmのグローエンジンです。

試作エンジンについては 「15クラスのマイクロ4サイクルエンジンの試作」をご参照下さい。



【15‐4stエンジンの加工偏】  (写真をクリックすると、大きく表示できます)
クランクケースの旋盤加工

【クランクケースの旋盤加工】

アルミ鋳物のボスをチャックして回転センターを押し当てて芯出しを行い。
クランクケースの内面をドリル下穴加工後に中繰りして行きます。
ダイキャストなら内面の精度出し切削で済みますがロストワックスは削り代が多く大変です。
切削した軸と端面がすべての基準となります。


CNC切削

【シリンダー穴のNC加工】

シリンダー取りつけ部をCNCで加工します。
同時にシリンダー取り付けネジの下穴とエンジン取り付けマウントのドリル加工を行います。
マシニングのように刃物交換は自動ではありませんので手間がかかります。
キャブ穴は後でサインバイスで10°の傾斜を付けて切削します。


フロントベアリング穴加工

【フロントベアリング受け穴加工】

クランクケース先端のチャック用ボスを精密切断機でカットして再び旋盤加工です。
軸の芯出し精度が最も重要で、わずかにでも振れると後でクランクシャフトは廻りません。
旋盤内爪でチャックでダイヤルゲージで何度も芯出しします。
クランクシャフトがロータリーバルブになっているため、ケースとのクリアランスは1〜2/100mm程になります。
クリアランスが大きいとエンジンの回転ムラの原因となるため、最も神経を使うところです。


クランクケースの側面

【クランクケース側面穴加工】

キャブの取りつけ穴とスーパーチャージの混合気の供給通路をドリル加工します。
燃料は上部キャブから吸い込んで、ピストンで圧縮して下部から排出する構造です。
シンプルで信頼性の高いバルブ機構ですが、過度な圧縮はキャブへの逆流を起こす欠点があります。
小さなエンジンだからこそできる過給方式です。
バイスチャック用の専用冶具は、快削鋼で切削しました。


クランクケース

【加工途中のクランクケース】

まだキャブの取りつけ穴加工は終わっていません。
切削すると元のアルミ鋳物の重量の1/3くらいになります。(約18g)


カム・ギアケースの加工

【カム・ギアケースの加工】

アルミ鋳物のボス部をチャックしてベアリング受け穴を加工します。
カム駆動の1stギアシャフトのドリル穴が基準となります。
組み立て性を良くするため、内径は焼きばめよりわずかに緩めです。
固定は永久はめ合いのロックタイト648を塗布してます。
焼きばめが理想ですが、調整しながらの組み立てのためやむ得ず・・・。


カム&ギアケースの加工

【カム&ギアケースのCNC加工】

旋盤チャック用のボスを切り落としてケース内部を切削します。
1stギアのセンター穴を基準にギア収納部とベアリング受けをNCフライスで切削します。
加工時間約8分・・・セットして一服・・・。
クランクケースへの取り付け穴、ギアカバー取り付けのタップ下穴も一緒に加工します。
もう少しNCの精度がよければいいのですが・・XYテーブルのバックラッシュが問題です。
ボールネジの送り精度は5/1000mmですが、テーブルのガタとスピンドルのブレなど加味して
精度は2/100mm程度しか出ません。PCの加工データ上で微調整して・・何とか・・。


カム・ギアケース

【切削加工の終わったカム&ギアケース】

ムクの材料からの切削に比べたら加工時間は何十分の一で済みます。
2サイクルなら不要な部品です。4stは余りに部品点数が多い・・・。
多くの方に使って頂きたいのですが・・手加工では手間がかかり過ぎです。
この後、ロッカーアーム駆動用のプッシュロッドの穴加工があります。


シリンダー

【シリンダーの加工】

シリンダーのプラグ穴加工を行っています。
模型エンジンのプラグネジはインチサイズで1/4W32です。
ネジ径6.35mm、ピッチは1インチに32山で標準タップではあまり見かけません。
吸排気管はM6×P0.75(細めネジ)でタップを立てます。


カムのCNC切削

【カムのCNC切削】

吸排気用のカムをCNCフライスで切削します。
カム形状は吸気と排気で異なります。吸気の方は先端に大きめの丸みを付けています。
また、できるだけ吸気性能を上げるため、吸気の方が0.15mmストロークを大きくとっています。
カムはストロークが5/100変わるとエンジンのパワーに大きく影響するくらい微妙です。
材質はSK材で水焼き入れ処理で表面硬度をHRC65くらいまで上げています。
焼き戻しは、180℃×1時間ほど天ぷら油で揚げて調質しました。


シリンダーライナー

【シリンダーライナー】

真鍮パイプから切削したシリンダーの内面をホーニング研磨します。
シリンダー下部が上部より1/100oほど広くなるようテーパーを付けています。
研磨後、厚み10ミクロンの無電解ニッケルメッキを施して350℃で1時間焼きます。
このベーキング処理によってメッキの表面硬度は800Hvくらいまで上昇して耐摩耗性が確保できます。
無電解ニッケルは電極が不要で、均一なメッキができるため精度の必要な内面には最適と思います。
それにしても、指先はガサガサ、爪は真っ黒・・・になります・・・(--;)。


シリンダーライナー

【各種シリンダーライナー】

試作したシリンダーライナーです。
左から、真鍮素地、真鍮+無電解ニッケル、アルミ+無電解ニッケル、スチール素地
熱処理によって歪みが心配でしたが、内径マイクロメータで計測できる誤差範囲内です。
この他に硬質クロムメッキも外注で試してみましたがメッキコストがかかり過ぎます。
アルミピストンの熱膨張率23×10(-6)、真鍮18×10(-6) 鉄12×10(-6)から、そこそこ近い真鍮
が多く使われています。
ピストンリングを使わない場合は同じ膨張率のアルミピストンにアルミシリンダー(メッキ)
が理想と思います。


クランクシャフト

【クランクシャフトの熱処理】

切削加工の終わったクランクシャフトです。
右から、SUSの素地、窒化処理後、研磨処理後となっています。
材質はSUS303で焼き入れはできませんので窒化処理を行いました。
SUSはクロムを含有しているので表面硬度1000Hv以上に堅く耐摩耗性が確保できます。
窒化すると艶のない灰色となり、窒化できていないところはブルーを呈します。
ただ、窒化でシャフト外形が1/100oほど大きくなるのでそれを考慮して小さめに切削します。
今度は、SCM435(クロムモリブデン鋼)で製作を予定しています。



小部品のメッキ処理

【小部品の電解ニッケルメッキ】

100円ショップで買ってきた深底のタッパで作った小さな電解メッキ槽です。
排気パイプやニップル、キャブスプレーバーなどをメッキします。
安定化電源装置は中古をネットで購入しました。定電圧・定電流などセットができて便利です。
電解液は硫酸ニッケル(15w%)、ホウ酸(1.5w%)、塩化アンモニウム(1.5w%)などで調合します。
ホウ酸はpHコントロール、塩化アンモニウムは電解液の導電性を良くするために入れました。
電極はニッケル板の端材を買って製作しました。
電解ニッケルメッキは下地処理さえしっかりすれば簡単できれいに仕上がります。



量産型でフライトができる実用4サイクルエンジンを目指しました。
1.6cc(10クラス)くらいのもう少し小さい物も出来ると思います。
ラジコン飛行機を飛ばすには、ただ回るだけでは使い物になりません。
耐久性、姿勢変化や気圧変化に対する安定性、扱いやすい始動性、・・・・・
小さくても安定したパワーやレスポンスなど。。。
エンジンには要求される資質が多くあります。
設計には「耐久性と実用性」を最も重視しました。

クランクシャフトの窒化処理、シリンダーの硬質ニッケルメッキで耐摩耗性を確保しました。
いわゆるABC仕様ではなくABN仕様です。(初期型はスチール製です)
アルミピストンとの熱膨張率を考慮して、クリアランスを決定しています。
バルブライナーなど摺動部にはリン青銅を圧入し、主要軸受には6個のベアリングを使用しました。
ギアはS45C焼き入れ、カム、ブッシュロッドなど駆動部品は全て熱処理を施しています。
エンジンはそれぞれ使う材料と熱処理や表面処理次第でガラクタにも逸品にもなります。
小さくても、それなりに高性能なエンジンを目指して・・・!!


Tachino Products